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糖尿病とは
糖尿病とは、血液中の血糖(ブドウ糖)が慢性的に高くなる病気です。
血糖値を下げる唯一のホルモンであるインスリンの作用不足によって起こります。
糖尿病の発症には遺伝的な要素がみられますが、生活習慣病のひとつで、多くの場合、食生活、運動不足、肥満、加齢などに起因します。
糖尿病を無治療のまま放置すると、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧性症候群など緊急度の高い病気だけでなく、3大合併症といわれる糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害にかかるリスクが高まります。
糖尿病の病態
インスリンが十分に作用しない
血液中にブドウ糖がたまってしまう
血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が高い状態が続く
いろんな病気が起こる
血糖値はインスリンによってコントロールされています
すい臓のランゲルハンス島という組織にあるβ細胞でインスリンはつくられています。
食事によって血糖が高くなると、すい臓のβ細胞がこの動きを察知し、インスリンを分泌します。
血糖が全身の臓器に届くと、インスリンの働きによって臓器は血糖をとり込んでエネルギーとして利用したり、蓄えたり、さらにタンパク質の合成や細胞の増殖を促したりします。
このように、食後に増加した血糖は、インスリンによって速やかに処理され一定量に保たれるのです。
■インスリンが正常に働かないと
もし、インスリンの量が少なかったり、分泌されてもうまく働かないと、血糖が一定の値を超えて高い状態が続きます(高血糖)。この状態が糖尿病なのです。
■1型糖尿病
・インスリンがほとんど分泌されない
ランゲルハンス島のβ細胞が何らかの原因で破壊され、インスリンがほとんど分泌されないため、高血糖になります。
■2型糖尿病
・インスリンの量が足りない、または分泌されるタイミングが悪い
インスリンが十分に分泌されなかったり、分泌のタイミングが遅れるため高血糖になります。
・インスリンは分泌されるが、働きが悪い(インスリン抵抗性)
インスリンの作用が障害されるため高血糖になります。
「糖尿病型」の判定
1回目の血糖検査で
- 朝の空腹時血糖値 126mg/dL以上
- 75g経口ブドウ経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の2時間値 200mg/dL以上
- 時間に関係なく測定した血糖値 200mg/dL以上
- HbA1cが6.5%以上
いずれかが認められた場合 糖尿病型と判定されます。(※)
空腹時血糖値および75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値の判定基準
ブドウ糖摂取後の血糖とインスリンの値により、正常・糖尿病・境界型のいずれかに判定されます。
- 正常:空腹時血糖110㎎/dl未満かつ2時間後血糖140㎎/dl未満
- 糖尿病:空腹時血糖126㎎/dl以上または2時間後血糖200㎎/dl以上
- 境界型:糖尿病になる危険があるので、早めの管理が必要です。
糖尿病の状態を調べるための主な検査
■グリコ(糖化)ヘモグロビンA1c(HbA1c)検査
血液中のグリコヘモグロビンA1cの値を調べます。
過去1~2カ月の血糖コントロールの良否を知ることができます。
HbA1cが6.5%以上であれば糖尿病型の判定となります。
*HbA1c<5.6%⇒正常
*HbA1c:5.7-6.4%⇒境界型糖尿病の疑い(※)
■グリコ(糖化)アルブミン(GA)検査
血液中のグリコアルブミン(GA)の値を調べます。
過去2-4週間の血糖コントロールの良否を知ることができます。
GAが20.0%以上であれば糖尿病の可能性が高いと考えます。(※)
*GA:11-16%⇒正常
血糖コントロールの目標
コントロール目標値※4 | |||
---|---|---|---|
目標 | 血糖正常化を 目指す際の目標※1 |
合併症予防 のための目標※2 |
治療強化が 困難な際の目標※3 |
HbA1c | 6.0未満 | 7.0未満 | 8.0未満 |
治療目標は年齢、罹病期間、臓器障害、低血糖の危険性、サポート体制などを考慮して個別に設定する。
※1食事療法や運動療法だけで達成可能な場合、または薬物療法中でも低血糖などの副作用なく達成可能な場合の目標とする。
※2合併症予防の観点からHbA1cの目標値を7%未満とする。対応する血糖値としては、空腹時血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満をおおよその目安とする。
※3低血糖などの副作用、その他の理由で治療の強化が難しい場合の目標とする。
※4いずれも成人に対しての目標値であり、また妊娠例は除くものとする。
日本糖尿病学会 (編・著). 糖尿病治療ガイド2014-2015, 文光堂, 2014,p25
高齢者の血糖コントロールは患者ひとりひとりの生活のレベルに合わせて目標を設定し、糖尿病治療による副作用によって不利益を被らないかつ、高血糖による合併症を防ぐことが念頭になっています。
糖尿病の症状
糖尿病は、初期のうちには自覚症状がほとんどありません。
- 症状が現れたら病気は進んでいます。
- さらに糖尿病が進み、高血糖が著しくなると意識がうすれ昏睡状態におちいることがあります。
糖尿病が進むと次のような症状が現れます。
◎排尿回数が多くなる:多尿(日中や夜間で関係なく)
◎のどが渇く:口渇
◎冷たい飲料を飲む量が増える:多飲
◎空腹感が強く、たくさん食べる
◎疲れやすい
◎食後に異常に眠くなる
◎食事量が変わらないのに体重が減る
◎手足がしびれる、頻回に手足がつる:糖尿病性神経障害
自律神経にも障害が現れることがあります
- 自律神経は、内臓の働きを調整している神経です。
- 自律神経が障害されると『立ちくらみ』『便秘』『下痢』『尿の出が悪い』『ED(勃起不全)』などの症状が起こります。
糖尿病の合併症
なぜ治療しなければならないのか?
それは、合併症を防ぐためです!
血糖が高い状態が続くと血管が硬くなる=動脈硬化
いろいろな他の病気が起こってきてしまいます
合併症(血管の病気)
糖尿病は合併症が怖い病気です
- 血糖値が高い状態が長く続くことによって、合併症を引き起こします。
- 高血糖がもたらす障害の主なものは大きく分けて2つあります(細小血管障害、大血管障害)。
- 合併症が糖尿病の予後を悪くしています。
◎細小血管障害=三大合併症 トリオパチー
・網膜症
目の血管の病気で視力低下・失明をきたします。
*日本人の中高年の失明原因、第二位が糖尿病網膜症です。(※)
・腎症
腎臓の血管の病気でむくみや蛋白が尿から漏れてきます。さらに悪化すると尿が出なくなり透析となります。
*日本人の透析導入の第一位が糖尿病腎症です。(※)
・神経障害
神経が障害を受け、感覚神経・運動神経・自律神経に障害をきたします。
大血管障害=心臓や脳の血管で生じる病気
「動脈硬化」によって、心臓では狭心症や心筋梗塞、脳では脳梗塞などが発症します。
脳の病気- ・脳梗塞
- 脳につながる血管や脳内の血管がつまると脳梗塞を引き起こします。脳梗塞は、死に至る場合や深刻な後遺症(麻痺など)が残ることの多い病気です。
- ・一過性脳虚血発作
- 脳の一部の血液の流れが一時的に悪くなることで、半身の麻痺やしびれなどの症状が現れ、24時間以内(多くは数分から数十分)に消えてしまう状態です。
- ・狭心症
- ・心筋梗塞
- 心臓へ栄養を送る太い血管の内側が狭くなる、もしくは詰まり心臓への血液の流れが障害された状態です。胸痛や背部痛、息切れなどの症状を呈します。死に至る可能性がある病です。
*糖尿病の患者さまは胸痛などの典型的な症状が自覚しづらいと言われています。注意しましょう。
足の病気- ・閉塞性動脈硬化症
- 動脈硬化により足の血管が狭くなる、もしくは閉塞し下肢の安静時の痛みや歩行時に痛みを伴うものです。
さらに悪化すると、足が腐り壊疽に至ることもあります(糖尿病性足壊疽)。
その他の症状
・間歇性跛行
・足の冷え
その他の合併症
■糖尿病になると感染への抵抗力が低下し、感染症にかかりやすくなります。
・肺炎、腎盂腎炎・膀胱炎、胆嚢炎、皮膚の蜂窩織炎など
*特に足はきれいにしましょう!!⇒フットケアが大事です。
■認知症
・糖尿病は認知症の発症リスクが2.1倍なりやすいことが報告されています。(※)
・アルツハイマー型認知症の発症に約1.5倍なりやすく関与している可能性がございます。(※)
■糖尿病は骨をもろくする。
・高血糖状態では骨質が低下して骨が弱くなります(骨質低下)。
「骨の強さ」は、「骨密度」と「骨質」から説明され、「骨密度」が骨の強さの70%を、「骨質」が30%を説明するといわれています。(※)
◎骨強度=骨密度70%+骨質30%
・骨密度(Bone Mineral Density;BMD)
骨の一定面積または一定容積あたりの骨塩量(Bone Mineral Content;BMC)のことで、g/cm2またはg/cm3で表されます。骨密度の値が、YMA値(Young Adult Mean;若年成人(20~44歳)平均値)の80%以上は正常、70%以上80%未満は骨量減少、70%未満は骨粗鬆症とされます。(※)
なお、米国などではT-スコアが用いられます。T-スコアは、若年成人(20~30歳)平均値の標準偏差(SD)で表されます。WHOの診断基準では-2.5SD未満を骨粗鬆症としています。
・骨質(Bone Quality)
骨の強さ(骨強度)を説明する要素の中で、骨密度以外のすべての要素を骨質といいます。骨質は、「骨の微細構造」、「骨代謝回転」、「微小骨折の有無」、「石灰化」などで説明されるといわれていますが、現在のところ、骨質を評価・測定する指標はありません。
糖尿病の患者さんは骨が折れやすい
硬くてもろい!!(チョークのような感じです)
骨密度は保たれているが・・骨質が悪い!!
骨密度検査が正常でも注意が必要です。
糖尿病の慢性合併症
細小血管症 |
---|
網膜症 腎症 神経症 |
糖尿病足病変
大血管症 = 動脈硬化 |
---|
脳血管障害 冠動脈硬化症 末梢動脈性疾患 |
糖尿病足病変
歯周病
認知症・手の病変・骨病変
糖尿病の治療
食事療法 【重要】
カロリー制限=標準体重1kgあたり25~30kcal
- ◎和食中心のバランスの良い食事を心がけましょう。
- ◎洋食・中華・あげもの・丼ものは控えましょう。
- ◎食物繊維を多く摂りましょう。(1日20~25g以上)(※)
- ◎野菜は最初に食べましょう!!ベジファースト。
- ◎野菜の中でも、芋類(じゃがいも・さつまいも・さといもなど)・かぼちゃ・とうもろこしなどは糖質が多いのでとりすぎないようにしましょう。
- ◎食事はゆっくりよく噛んで食べましょう!!早食いはいけません。最低10分以上は食事の時間をつくりましょう。
- ◎アルコールの適量は1日25g程度です。(※)
- ◎高血圧や腎臓病があれば塩分は6g未満が推奨です。(※)
運動療法 【重要】
運動療法には急性作用と慢性作用があります。
①急性作用=血糖値を下げる
運動時には大量のエネルギーを筋肉が必要とされるため、そのもとになる血糖が大量に消費され、血糖値を抑制するように働きます。
②慢性作用=インスリン抵抗性を改善する
血糖をとりこみ、タンパク質を増やします。インスリン抵抗性の原因物質を産生する体脂肪を減らします。
運動療法は続けることが大切です。
続けられる「やや楽」なレベルを目安に1日20~40分程度の運動を週3~4回以上は行いましょう。
運動療法を続けることは肥満、高血圧、脂質異常症などの改善にもつながります。
薬物療法
①経口血糖降下薬
・現在、7種類の経口血糖降下薬が日本では使用されています。
・糖尿病の状態は人によってさまざまですので、それに合わせて処方し、目標の血糖コントロールに達しない場合は薬を追加していきます。
・薬の作用機序によって大きく3つに大別されます。下記参照ください。
②GLP-1製剤
・GLP-1は、もともとは小腸から分泌されるホルモンであるインクレチンの一つです。血糖依存性にインスリン分泌を調整し血糖を下げる働きがあります。
・GLP-1製剤は、現段階では注射製剤になります。毎日皮下注射するものや、1週間に1回皮下注射のものがあります。
・食欲抑制作用や体重減少作用が期待されます。
③インスリン療法
・血液中には少量のインスリンが常に分泌(基礎分泌)され、さらに食後に血糖値が上昇すると大量のインスリンを分泌(追加分泌)することで血液中のブドウ糖の量が一定に保たれるように血糖値の調整が行われています。
糖尿病患者は、このインスリンが十分に作用しないため、この調整を自然に行うことができません。
・そのためインスリン製剤は追加インスリン分泌として作用する速効型or超速効型インスリンや基礎インスリン分泌として作用する中間型or持効型インスリン、また超速効型インスリンと中間型・持効型インスリンを混合したタイプのものがあります。
・インスリン分泌が枯渇している1型糖尿病ではインスリン治療が適応になります。また、血糖コントロールが悪い2型糖尿病や妊娠糖尿病や糖尿病合併妊娠の治療にもインスリン治療を選択することがあります
・インスリン治療がやめられるかやめられないかは個々の患者さまの状態(インスリンの分泌能力がどれだけ残存しているか・腎臓や肝臓の合併症の程度など)によって決まります。
低血糖
・血糖値が70mg/dl未満の状態です。
・主に糖尿病治療の副作用として起こります。
・血糖値に応じて下記のような症状が出現します。
血糖値 | 症状 |
---|---|
80-110mg/dl | 正常 |
60-70mg/dl | 空腹感 あくび 悪心 |
50mg/dl | 倦怠感 計算力低下 目のかすみ |
40mg/dl | 冷や汗、動悸、手の震え、顔面蒼白 |
30mg/dl | けいれん、昏睡、異常行動 |
・低血糖時の対応としてはブドウ糖10g以上の内服することが必要です。
*ブドウ糖がなければコーラなどの糖分が入っているジュースやラムネや飴でも構いません。
*0Kcalやノンシュガーと記載のある食品では血糖値があがらないので低血糖時は避けましょう。
妊娠糖尿病
「妊娠中に初めて発見または発症した糖尿病にいたっていない糖代謝異常である」と定義され、妊娠時に診断された明らかな糖尿病(overt diabetes in pregnancy)は含めません。
妊娠糖尿病の頻度
過去の診断基準:2.92%
現在の診断基準:12.08%
2010年7月に大規模な診断基準の変更があったため妊娠糖尿病の頻度は4.1倍に増加しました。(※)
妊娠糖尿病と妊娠時に診断された明らかな糖尿病
妊娠糖尿病と妊娠時に診断された明らかな糖尿病の主な診断基準
(いずれか1つでも満たした場合。血糖値の単位:mg/dl)
妊娠糖尿病 | |
---|---|
①空腹時の血糖値 | 92以上 |
②ブドウ糖負荷試験後1時間値 | 180以上 |
③ブドウ糖負荷試験後2時間値 | 153以上 |
妊娠中に分かる糖尿病 | |
---|---|
①空腹時の血糖値 | 126以上 |
②HbA1c | 6.5%以上 |
③糖尿病性のある網膜症がある | 180以上 |
④随時血糖値200以上もしくは、ブドウ糖負荷試験後2時間値200以上 |
妊娠糖尿病の危険因子
- 2型糖尿病の家族歴
- 肥満
- 35歳以上の高年齢
- 巨大児分娩既往
- 妊娠糖尿病既往
- 多嚢胞性卵巣症候群
- 多胎妊娠
- 妊娠高血圧症候群
- 羊水過多症 etc
妊娠糖尿病の検査は、これらのリスクファクターのある妊婦さんは意欲的に受けるようにしましょう。
妊娠する前に異常がないか検査を受けることも大切です。
血糖コントロールが悪いために起こるトラブル
赤ちゃんのトラブル
奇形/巨大児/子宮内胎児死亡/未熟児/低血糖/呼吸障害/黄疸など
母体のトラブル
糖尿病網膜症と腎症の悪化/妊娠高血圧症候群/羊水過多症/膀胱炎など
妊娠中の血糖管理目標
◎血糖コントロール目標:
- 食前血糖値 : 70~100mg/dL未満
- 食後1時間血糖値 : 140mg/dL未満
- 食後2時間血糖値 : 120mg/dL未満
◎HbA1c・GA目標:
※妊娠中はHbA1cのみでなく、グリコアルブミン(GA)も用います。
- HbA1c:5.8%未満
- GA:15.8%未満
*妊娠糖尿病の既往のある方は産後に妊娠糖尿病の妊婦さんは耐糖能が正常の妊婦さんに比べて、
将来糖尿病になる確率は7.43倍であると報告されています。
産後は子育てなどで忙しく自分の管理まで手が回らないと思いますが、糖尿病発症予防のため定期的な検診を受けましょう!
(※)参考文献
日本糖尿病学会 (編・著). 糖尿病治療ガイド2014-2015, 文光堂, 2014